グレイフライアーズ・カークヤード

グレイフライアーズ・カークヤードのイメージ

グレイフライアーズ・カークヤード(Greyfriars Kirkyard)は、イギリスのスコットランド領内、エディンバラにある教会墓地のことです。世界的に人気が高いファンタジー小説シリーズ「ハリー・ポッター」の著者がこの教会のそばにあるカフェで第一作目を書いたことで有名です。作中最強の悪役である魔法使い、ヴォルデモード卿のモデルとなった人物の墓もあることから、世界中の「ハリー・ポッター」ファンが訪れる人気の観光地となっています。そしてこの教会には裏の顔があります。それは教会墓地で頻繁にポルターガイスト現象が起こるというものです。現地では超有名な心霊スポットとして扱われており、「地球上で最も恐ろしい場所」「世界で一番怖い墓地」と言われています。

官吏ジョージ・マッケンジーの悪霊

この教会墓地の一角は、昔、牢獄として使用されていました。17世紀後半、この牢獄の官吏にジョージ・マッケンジー(George MacKenzie)という者が赴任し、投獄されたプロテスタント長老派の信徒に凄まじい拷問を加えたそうです。マッケンジーは死後、同墓地の片隅に霊廟を建てられ、そこに埋葬されました。墓地に出没するのはこのマッケンジーの悪霊とのことです。マッケンジーの悪霊は死後数百年経ってなお拷問する相手を求めているようで、今でも訪れた観光客が見えない何かに首を絞められる、顔を引っ掻かれる、切り付けられる、その他さまざまな危害を加えられるという報告が多発しています。一体どうしてエディンバラの片隅にある教会にそのような残酷な逸話が残っているのか。この話を説明するにはスコットランド史をひも解く必要があります。

スコットランドの血塗られた宗教戦争

かつてスコットランドではカトリックとプロテスタントによる争いがありました。プロテスタントは神の絶対性と教会の権力否定を唱えるカルヴァン派の系譜で、「長老派」等と呼ばれ、それに対しスコットランドを支配しているステュアート朝はカトリックを掲げ、長老派にたびたび迫害を加えました。そしてその長老派の信徒が集った地が、グレイフライアーズ・カークヤードのあるエディンバラでした。17世紀、イングランド王にチャールズ一世が即位します。チャールズ一世はスコットランドとアイルランドの王も兼ねていました。この頃のスコットランドではプロテスタントの長老派に勢いがありましたが、チャールズ一世はその流れと異なる「イングランド教会制度」を押しつけようとします。これにプロテスタントが反発。イギリス全土を巻き込む「清教徒革命」が勃発。チャールズ一世はこの戦いに敗れ、処刑されますが、その後も戦乱と政情変化は続き、結果的にステュアート朝は再び王政に返り咲くことになります。そして、かつて革命によって父を殺されたチャールズ二世によって、プロテスタントの長老派は徹底的に迫害されることになったのです。この頃の長老派は「カヴェナンター」と呼ばれ、また同時代は「殺戮時代」と言われます。

血まみれのマッケンジー

グレイフライアーズの牢獄で拷問を受けたプロテスタント長老派は、の「ボスウェル・ブリッジの戦い」に敗れた人々です。この戦いの発端は、ステュアート朝による迫害に憤りを覚えた長老派の一団がセント・アンドリュースの大主教を殺害したことから始まります。大主教を血祭りにあげ息まく一団でしたが、統率された国王軍が迫り来ると為す術もなく、「ボスウェル・ブリッジの戦い」にてあえなく完敗。反乱は鎮圧され、捕えられた長老派の人々はカークヤードの南側に位置する牢獄に収監されます。その際の上級官吏が、ジョージ・マッケンジーという男でした。彼はあまりの残虐さに“血まみれの”という意味を込められ、「ジョージ・ブラッディ・マッケンジー」と呼ばれるほどでした。長老派千数百人は真夜中の寒風に一晩中さらされた後、地下牢に投げ込まれ、食料も与えられず飢えと拷問の責め苦を受け続けたそうです。その多くは獄中で殉死し、生き残った一部は耳を削がれて奴隷としてアメリカに売られました。

「地球上で最も恐ろしい場所」と言われることも

血塗られた歴史を持つグレイフライアーズ・カークヤードですが、出没する霊は虐殺された長老派の信徒ではなく、官吏のマッケンジーだそうです。マッケンジーは死後、教会墓地の一角に霊廟を建てられ、そこに埋葬されました。霊廟はあまりにも禍々しいマッケンジーの魂を封印する役割を担っていたと言われています。そして、この封印の扉は夜中に寝床を探して侵入したホームレスによって解き放たれてしまいました。それ以来、霊廟付近ではポルターガイスト現象が多発するようになったのです。過去にはコリン・グラントという名のエクソシストによって悪霊祓いが行われたそうですが、儀式は失敗し、コリン・グラントはその数週間後に心臓発作で死んでしまったそうです。噂の真偽のほどは不明ですが、事実、マッケンジーの霊廟のそばでは現在でも心霊現象の報告が絶えません。教会墓地はFOXテレビで「地球上で最も恐ろしい場所」として紹介されており、現地では「ゴースト・ツアー」なるものまで用意されています。